写真を趣味としている人は、スマホではなくカメラで写真を撮影している人が多いと思う。
僕もそうだ。
ほとんどの写真はカメラで撮影し、スマホで写真を撮るときはメモ代わりの撮影やSNSにアップするときなどの機会に限られる。
しかし、世の多くの人はスマホで写真を撮っている。
ではなぜ、僕はスマホではなくカメラで写真を撮っているのか。
スマホで写真が撮れるなら、わざわざカメラで撮ることもないだろう。
スマホは常に携帯しているため、いつでも撮影が出来る。
思い立ったときに写真撮影が出来るため機会損失がない。
そして、小さくて軽い。
そう考えると、スマホで写真を撮影する方が良いではないかと思う。
しかし、僕はカメラで写真を撮影する。
今回は、なぜスマホではなくカメラで撮影するのかを自問自答してみた。
ちなみに僕の妻や息子もスマホで写真を撮るが、カメラでは写真を撮らない。頑なに。

カメラで写真を撮る理由その1:カメラを構えてファインダーを覗いて写真を撮る行為が好きだから
まぁ、これはスマホには出来ない行為だ。
右手でカメラを支えてその人差し指はシャッターボタンへ、左手はレンズを支えて片目はファインダーを覗く。
アイコニックな動作だし、カメラで写真を撮影することの醍醐味を感じる。
僕は三脚を使う場合や不自然な姿勢にならない限り、このスタイルで写真を撮る。
どうしても無理な場合は背面モニターを見ながら撮影することもあるが、基本的にはこのスタイルだ。
そのため、僕はファインダーを覗いて撮ることが出来るのにモニターを見ながら写真を撮る人への理解が困難だ。
先日、とある施設に行った際に、α7IVをモニターを見ながら撮影している写真撮りがいた。
意図は分からないが真正面にある被写体に対してネックストラップをぴんと張っているわけでもなく、構図に悩んでいる様子もなく、それがその写真撮りのスタイルなのか自然な流れでその行為に及んでいた。
まぁ、人様の所作に対してあれこれ言うのはどうかと思うし、僕の個人的な好みなんて読者にとってはどうでも良いのだが。
令和の時代、写真はスマホで撮るのが大多数である。それをわざわざカメラで撮るのは世間一般から見たら変わり者だと思う。
クルマ好きがマニュアル車に乗る。普通のクルマはオートマなのにわざわざマニュアル車に乗るなんて変わり者だ、という考えと一緒だ。
どちらも強いコダワリを持っていると思われているだろうし、一歩間違えば道楽者だ。
それ故、理解できないのは、なぜその趣味を貫けないのかということだ。
「別にカメラで撮るときでもモニターで撮ったって良いではないか」
「そんなの個人の自由なんだから決めつけるな」
と言う意見もあるとは思うが、僕はどうでも良くないし、個人の自由ではなくこうあるべきだと決めつける。
なぜなら、どんな物事にも所作というものがあるからだ。
釣り、ロードサイクル、お酒の飲み方、コーヒーの淹れ方。何に対しても必ず正しい所作がある。
趣味人なら当然心得ているべきだ。
だから、僕はファインダーを覗いて写真を撮ることにこだわる。
「じゃあ、ファインダー非搭載のカメラはどうなの?」
そのカメラに余程の魅力がない限り、否定的を印象を持っている。

カメラで写真を撮る理由その2:レンズが交換できるから
レンズ交換式のカメラに限られることだが、意図した写真を撮影する上ではどうしても被写体に合ったレンズが必要になる。
スポーツや野鳥の撮影などの超望遠撮影が必要なシーンでは、スマホのカメラ機能では意図した写真を撮ることは困難だ。
また、星空や星景写真などの広角で明るいレンズが必要な撮影でもスマホでの撮影は難しい。
適宜撮影対象に合わせてレンズを交換出来るのがレンズ交換式カメラの優れている点だ。

カメラで写真を撮る理由その3:意図した写真作品が作りやすいから
カメラで撮影した写真の方が、スマホで撮影した写真よりも加工がしやすい。
それは、カメラのイメージセンサーの方がスマホのそれよりも画素サイズの大きいため、受光感度に優れておりデータの品質が高いためだ。
スマホでもカメラの高品質を謳っているモデルもあるが、イメージセンサーの画素サイズの比較ではカメラとは物理的な制限があり、同じにはならない。
35mmフルサイズイメージセンサーの寸法は36mm×24mmだ。スマホに無理矢理入れても、フランジバックが確保できずレンズが設置できないため、現実的に搭載は不可能だ。
ちなみに、iPhoneシリーズの場合、多くの機種では異なる焦点距離のレンズと組み合わせたイメージセンサーを複数搭載している。
広角カメラ、超広角カメラ、望遠カメラといった具合だ。
iPhone16ProのCMOSセンサーサイズは、広角カメラで1/1.14型、超広角カメラと望遠カメラで1/2.55型になると言われている。
インカメラを含めると4つのカメラを搭載しているため、どうしてもひとつのカメラのイメージセンサーのサイズには制約が出る。
従って、スマホではイメージセンサーの受光品質においてカメラには敵わないため、得られるデータの品質にはカメラに大きく分がある。
色深度はどうか。
一部のスマホでもRAWで撮影が出来るモデルがあるが、カメラで取得した方がより多くの情報を取得することができる。
iPhoneProシリーズに搭載されているAppleProRAWはAppleのRAW形式となっており、色深度は12bitである。
しかし、多くのレンズ交換式カメラの多くは14bitで取得できるし、中には16bitで取得出来るモデルもある。
カラー写真の場合はRGBで表現されるため、値はR×G×B×の合計値となる。
そのため、12bitと14bitでは大きな差が生じる。
上記に挙げた各bit数を色数で表すと下記のとおりとなる。
12bit = 各色合計 36bit =687億1947万色
14bit = 各色合計 42bit =4兆3980億4651万色
16bit = 各色合計 48bit =281兆4749億7671万色
8bit = 各色合計 24bit =1677万色(JPEG画像、参考値として)
参考値としてJPEGのフルカラーである1677万色と比較しても、AppleProRAWは比較にならないくらい多くの色情報量を取得できることが分かる。
JPEGでは黒つぶれや白飛びしていても、実はRAWデータには膨大な色情報が眠っており現像時の調整でその部分の情報を浮かび上がらせることが出来る。
レンズ交換式カメラは14bitのため、AppleProRAWよりも桁違いに多くの色情報を取得することが出来る。
RAWデータは画像ではないので、写真現像ソフトウェアで最終的に1677万色のJPEG画像にするのだが、その際に材料となるRAWデータに格納される色情報量の違いで表現可能な幅も変わる。
687億1947万色の中から選ぶ1677万色と
4兆3980億4651万色の中から選ぶ1677万色。
当然ながら、もとになるデータの色深度が大きい方が、より意図した色を表現出来るし、編集の自由度も高いため、スマホよりもカメラが有利だ。
データの品質と、情報量が多いRAWデータが得られる点において、カメラの方がスマホよりも優れているのである。

カメラで写真を撮る理由その理由4:写真とは光学機器で撮影するものだから
スマホのカメラは撮影時にたくさんのデジタル補正処理を行っている。
レンズの歪曲補正、背景ボケ(ぼかし処理)など、あらゆる補正をデジタル処理を行い写真を加工している。
前段の理由2と3で述べたように、レンズの性能やイメージセンサーの性能では、スマホは画質の面で絶対にカメラに敵わない。
しかし、スマホがカメラよりも優れている点のひとつに、高性能なSoCとそれによる画像補正処理能力がある。
スマホの写真は無補正ではレンズの歪曲やノイズ量、ボケ量などで写真として見劣りしてしまうため、強力なデジタル処理で煌びやかな写真へと加工される。
こうすることで一丁前の写真に見えるのだ。
でもこれは僕の視点からみると邪道な写真だ。
ちなみに、カメラでも同じように強力な画像補正処理を行えば良い、と考えているカメラメーカーがある。
光学的に多少の無理が生じても、スマホ写真のように画像補正処理を行うことで綺麗に見える写真に加工することが出来れば良いと考える。
歪曲補正、ブリージング補正、周辺減光補正などナド。
これらの問題を光学性能で解決していくのは分かるが、デジタル加工で解決するカメラは、写真機としての魅力が全くない。
スマホが台頭しているからといって、カメラがスマホと同じ道を歩んでいくのは間違っている。
スマホはスマホ。カメラはカメラだ。
最近は高級ラインであるにもかかわらず、デジタル補正が必要なレンズがある。
僕はレンズは光学製品だと思っているのだが、これらのレンズはまるでデジタル機器のようだ。
前段で現像ソフトを使うのにデジタル写真を否定するのか、と言われそうだが、意味が違う。
イメージセンサーが受光した像を変化させてしまったら、もうそれはCGではないか。
僕の中では、レンズの歪曲を補正することと、消しゴムマジックで電線を消すことは同じ行為だ。
そういう世界も存在するのは分かるが、それはあくまでもスマホの世界の中だけだ。
僕はカメラやレンズは光学製品だと思っているので、そういったものは好んで使わない。
真っ直ぐな被写体はフィジカルな性能として真っ直ぐに描写するべきだし、カメラメーカーもそこに注力していくべきである。
デジタル補正などでごまかしてはいけないし、そんなことはカメラですることではない。
当たり前だが、デジタル機器には写真撮影機器としての魅力をまったく感じない。
補正が必要な課題をフィジカルな精度の高さで解決することはおかしな事ではない。

僕はスマホで写真を撮ることを否定しない。
僕もスマホで撮影するし、スマホでしか撮れない写真があることも事実だ。
これまでにもスマホで撮影された素晴らしい写真も沢山見ている。
なにより、写真投稿の世界最大のサイト「Flickr」に投稿されている写真は、iPhoneProシリーズで撮影された写真が最も多い。
熱心にスマホで写真を撮っている写真撮りがいたら、かなりの熱量で語り始めるだろうな。
